札幌地方裁判所 昭和46年(む)889号 決定 1971年11月27日
被疑者 高田康司
決 定
(事件名、住居、職業、氏名略)
右の者に対する頭書被疑事件についての勾留請求につき、昭和四六年一二月二七日札幌地方裁判所裁判官がなした右請求却下の裁判に対して、検察官から適法な準抗告の申立がなされたので、当裁判所は、次のとおり決定する。
主文
本件準抗告の申立を棄却する。
理由
一、(申立の趣旨及び理由)
本件準抗告申立の趣旨及び理由は、検察官提出の準抗告申立書記載のとおりなので、ここにこれを引用する。
二、(当裁判所の判断)
一、一件記録によれば、原裁判官が本件勾留請求を却下した理由として記載した事項一、二の事実をすべて認めることができる。
右事実のうち、被疑者が警察官の「待て」と叫ぶ声に応じて、付近にいた車を修理中の運転手に足払いをかけられて転倒した事実、被疑者を警察署に同行しようとしていた警察官二名のほかに折りから巡回中の警察官二名、以上合計四名もの警察官が転倒した被疑者に追いついて被疑者の腕を両側からつかまえた事実、並びにその際の状況について、被疑者が勾留裁判官の質問に対し「警察官から腕を逆にねじられバンドを押えられ前後左右に警察の人がつき……」と供述していることなどを綜合して考えると、原裁判官が、右の際被疑者に対し実質的な逮捕行為が行われたと判断したことが、明らかに誤っているということはできない。
もちろん検察官が主張するように、警察官から腕を逆にねじられたという被疑者の供述が、事実を誇張したものであるかも知れない、また警察官において被疑者に対しことさら乱暴な所為におよぶ意図でそのようにしたのではなく、たんに逃走を阻止するためにそうしたにすぎないかも知れない。しかし任意同行の限界を判断するにあたっては、警察官の内心の意図を論ずる必要はない。外形的にみて、被疑者に対し、とうてい任意同行の方法として許される範囲を逸脱した状況があれば、もはやそれは任意同行の名に値しないものであり、他に特段の事情が認められない限り、実質的な逮捕行為があったと解すべきである。いわゆる職務質問のための任意同行にあたる警察官としては慎重な配慮をもってそれを行うべきである。なおまた、被疑者の右弁解が全くの虚偽にすぎないと断定することもできない。
二、以上のとおりであるとすれば、本件勾留請求を却下した原裁判は相当であって、本件準抗告の申立は理由がないものとして棄却すべきである(なお、緊急逮捕状の発令によって、それ以前の違法事実が治癒されるというような見解は当裁判所のとらざるところである)。
三、(結論)
よって本件準抗告の申立は、理由がないので、刑事訴訟法四三二条、四二六条一項によりこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。